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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
冷たかった。底の知れない冷たさだった。私はその冷たさを自分の口に吸い取るように、じっと唇を押し当てた。私の全身に、冷たい戦慄が伝わった。そして私は、はっと或る恐れを感じた、或る聖なる恐れを。私はまた、堯の顔に白布を被せてやった。自分の胸の中の肉を掴み去られた感じがした。
そしてそれが極度に聖であった。私は眼を瞑った。
家に着くと、私は堯を抱いたまま芳子の室に通った。赤ん坊の顔に私は一番に眼を落した。
私は全身に震えながら芳子の眼と見合した。芳子の緊張した視線が私の胸を刺した。
「何時に?」と芳子は云った。
「一時四十五分!」と私は答えた。
私は堯を芳子の所へ抱いて行ってやった。芳子は寝ながら、堯を抱き取った。顔の白布を取ってじっとその顔を見た。微笑んだ生きた顔が其処にあった。それから、胸に組み合した小さな両手を見た時、芳子は急に堯を抱せしめた。歯をくいしばって涙をはらはらと流した。
「坊や、坊や!」と芳子は云った。「なぜお母さんが居るうちに死ななかったの! 坊や、坊や!」
私はその側に坐って、芳子の肩を捉えた。そしてその涙にぬれた顔を私の方へ向けさした。