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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

「嗜眠の状態ではないかしら。」と私は思った。

大急ぎで食事を済したS子さんに至急車を走らして貰った。「U氏かS氏か、二人共居なかったら至急誰かに……。」と私は頼んだ。U医師に無断ではと思ったが、それを断る間も待ち切れなかった。

私と芳子とは堯の枕頭についていた。堯は欠伸をした。

「欠伸をするのはいい方だね。」と私は云った。

「さあどうですか。」と芳子は答えた。

然しそんなことでもいいと思わざるを得ないほど、私の心は不安になっていた。そしてその不安は本当に形になって現われて来た。

「あなた、眼が変ではありませんか。」と芳子が云った。

私は堯の眼を覗き込んだ。両の眼球が少し寄っていた。――芳子はそういう病人の眼を見たことがあったんだそうである。昨年の夏私が国へ帰って後、妹の病気がひどくなった時、芳子は彼女の眼が寄っているのを見た。「Yちゃんあなたの眼は変ね、大変寄っているわよ。」と云うと、妹は答えた。「そうお、何だかあたし、物が二つに見えて煩くて仕様がないのよ。」その後間もなく妹は死んだ。そう芳子は私に後で話した。

一時すぎであった。堯は両手を少し震わした、と同時に、両眼が少しぐるりと廻転した。