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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

犯人は意外の所に在るのかも分りませんから。」

田原さんは、首を垂れて何やら考え込んでいるらしい原口の方をじっと眺めた。そして云った。

「ああ宜しい。君もよく注意してくれ給え。私の方でもそれとなく注意はしているんだから。」

実直な老人の原口は何やら物足りなそうにして帰っていった。

それから数日後のことである。広田が店で田原さんの所へやって来た。

「其後更に見当がつきませんが、少し疑わしい点もありますので、も一度物品を調べて見ては如何でございましょうか。」

で田原さんは、広田と原口と三人で、再び店の物品を調べてみた。すると前に不足していたものは皆揃っていた。会計の方も別に怪しい点は無かった。

田原さんは、何か云いたそうにしている広田をじっと見ながら、こう云った。

「これで宜しい。何も不足したものがない以上、もう調べる必要もあるまいと思う。ただ君達に注意しておくが、以後気を附けておいてくれ給え。」

雪になりそうに思える寒いどんよりと曇った日であった。田原さんは椅子に腰掛けながら、瓦斯煖炉の火に輝らされている広田の顔をじっと見つめた。髪を綺麗に分けたその額のあたりに汗がにじんでいた。