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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
父さんに酒を飲むなとは云わないが、良助とみよとが大きくならないうちは決して死んではいけないって。」
徳蔵は杯を下に置いて、じっと良助の顔を見つめた。
「何だ俺に死んではいけないって……。悪い洒落を云うもんじゃねえ。こんなにぴんぴんしていらあね。」
「だからよ、生きながら死ぬなって仰言ったんだ。ただそれだけ分っていればいくら酒は飲んだって構わないんだそうだ。」
「なるほど旦那はうまいことを云うもんだ。」
徳蔵はそう云ったが、一寸小首を傾げて、それからまた杯を手にした。
良助は云うだけのことを云ったという風ですぐに立ち上った。
「何だもう行くのか。」
「学校が遅くなるから。」
「そうか。まあしっかり勉強するがいい。」そう云って徳蔵は一寸下唇を舌で嘗めて、じっと良助の方を見やった。
みよ子が門口まで良助を送って出た。
「兄さんまたお出でよ。」
「ああまた来るがね、父さんはいつもやかましいのかい。」
「いえそうでもないけれど……。」そして彼女はそのまま俯向いてしまった。
「僕は学校が遅くなるから、それでは行くよ。今度はゆっくり来ようね。」
みよ子は黙って首肯いた。そして良助の後姿を見えなくなるまで見送っていた。