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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
田原さんは懶い表情をしてぼんやりまた茶の間に坐り込んだ。
「あなたは徳蔵のことばかり気にしていらっしゃるのですね。」としげ子が微笑みながら云った。
田原さんはそれには何とも答えなかった。
四時頃、徳蔵が巡査につれられて来てから一時間半ばかりたった頃、芝に使いに行った良助が帰って来た。田原さんは急に生々した表情をした。
「御苦労だった。暑かったろうね。」
良助は袴のまま其処に坐った。
「あの明晩こちらへ伺うから宜しくってそう仰言っていられました。」
「ああそうか、川口さんに逢ったのか。」
「はい。そして御馳走になって来ました。」
「それはよかった。まあ身体でも拭いて来るがいい。」
その時表の方の縁側で何か音がした。それをきくと田原さんは俄に陰欝な顔をして立ち上った。
良助はただわけもなく田原さんの後について行った。
徳蔵は上半身を起してぽかんとして縁側に腰掛けていた。
「どうだ気分は!」と田原さんは苛ら苛らしたような調子で尋ねた。
徳蔵はふり返って田原さんを見ると、急に二三度お辞儀をした。
「どうだ気分は?」と田原さんはまた尋ねた。
「いえもうすっかりいいんです。