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でんえんのまぼろし

田園の幻

豊島 与志雄

「世界評論」1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,053 字 · 17 页

青空文庫

怪しい物陰などのことを思ったせいだろうか。遠い太鼓の余韻のせいだろうか。狐火は美しいが、杉の沼は陰気すぎる。

狐火はまだ見えていた。数は増してゆくようだ。私は酒を飲み、宗吉は鶏鍋をつっついている。

「然し、夜光虫は今でもいるし、その作用を狐火だとすれば、狐火が無いとも言えないでしょう。」

「そんな風に言えば、狐火もあるわけだが……。」

二人とも、なんだか口数少く、話がはずまないのである。

すると、下女が宗吉を呼びに来た。茂助さんが来てると言う。

一人になって、私はぼんやり狐火を眺めていた。酒を飲んだり、煙草をふかしたりして、またも狐火を眺めた。だいぶ時間がたって、戻ってきた宗吉は、妙にくしゃくしゃな顔をしていた。

彼はどっかと胡坐をかいた。

「茂助が自転車をかりに来たんだが……やはり杉の沼だ。」

杉の沼で、三好屋の花子が溺れ死んでいたのである。鰻の夜釣りに行った平作がそれを見つけた。平作は他の部落の者だが、花子を見知っていた。藻の間に仰向きに浮いて、縮れ毛が顔にかかっていたが、花子だと分った。三好屋に馳けつけて知らせた。八幡様からぬけ出して三好屋で飲んでいる男たちがいて、すぐに助けに出たが、とても駄目だろうとのことだ。