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たばたのきしゃそのほか
田端の汽車そのほか
宮本 百合子
「婦人」創刊号、1947(昭和22)年7月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,507 字 · 17 页
その時分、この辺にほんとに、からたちの垣根が沢山あった。松平の空地をめぐって、からたち垣があるばかりでなく、その斜向いの千種さんの家のからたちの垣が、うちの古びた門につづいていた。あとでは分譲地になった、すぐ近所の須藤さんの杉林がからたち垣だった。うちの裏がやはりからたちで、シロという犬がその下をくぐって出入した。そればかりか、藤堂さんの森のぐるりを囲むのもからたち垣だった。この森では、つい先年まで梟が鳴いた。空襲がはじまってから、どういうレイダアのお告げだったのか、藤堂さんのところに先ず爆弾がおちて、ほんの僅かの距離しかないうちのゆずり葉の下の壕にかがんでいた私を震撼させた。次の月には焼夷弾が落ちて、全焼してしまった。その火の粉は、うちの屋根にふりそそいだ。又その次の月には、焼けのこった藤堂さんの石垣にぴっしりと爆弾が投じられた。森も何も跡かたなくなった。今年の夏、医者通いをして久しぶりにこの裏通りを通ってみれば、もと藤堂の樫の木や石倉でさえぎられていた眺望は一変して、はるばると焼けあと遠く目路がひらけた。九尺に足りないその裏通りのあちらの塀から這い出した南瓜の蔓と、こちらの塀から伸びた南瓜の蔓とを、どこの若い人のしたことか、せまい通りの頭の上で結び合わして、アーチにしてあった。