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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
か自分には恐ろしく感じられたかと云う事やを熱心に語り続けた。しかし、最後に彼女は、
「妾だって、ついこの四月までは女学校の寄宿舎でばかり暮らしていたんですもの。そんなに、いろんな事はよくは知らないわ。」と、つけ加えた。
庸介の頭は、まるで乾ききっている海綿が、水の中へ入れられてもすぐに水を吸いこまないように、今、妙に落ち付かない心持ちのために、妹のこれらの言葉には何の交渉をも持ち得なかった。その代りに彼は、妹の頬に浮んでいる美しい赤い血の色や、よく潤うている口の中や、その奥で見え隠れしている宝玉のような光沢を持った純白な歯やに我れにもなくじっと見入っているのであった。そして無意識の間に、自分の内なる本能の一部分が狡猾にもその事によってある幽かな快感に耽っているのであった。彼はみずから、それに気がついた時、驚きと羞恥とのために周章てて眼を他に転じた。しかし彼女は、そんな事を露ほども感じなかった。
彼女は喋舌る事に油が乗って来て、問われもしないのに今度は続いて女学校にいた頃の事に語り及んだ。
数多くの学友の事、先生達の事、寄宿舎の部屋部屋のはなし、食堂、浴室のありさま、――その浴室には素晴らしく大きな鏡があって、それへ自分の裸体の全身が初めて写った時のどんなに羞かしかったかという事、それから非常に親しくし合っ