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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
それに対して房子は、
「そんな事ではないと思うわ。……兄さんには、お友達から来る手紙が何よりの楽みなんですよ。それで、それが待ち遠でならないんでしょう。きっと。……だから、兄さんの方からもよく手紙をお出しになることよ。」
事もなげに、こんなふうに云うのであった。
母は、また、東京に「おんな」でもあるのではないか、とも思うのであった。しかし、そんな事はもちろん自分の胸だけのはなしで、口に出して云うような事は誰にもしなかった。それから、もう一つ、彼女が庸介について不審にも思い、かつははがゆく不満でならなかったのは、彼が、もうそろそろ何か、例えば読書のような事なり、またその他の何なりをやり出してもいいのだ。という事であった。この第二の事では、彼の父もまたまったく同感であった。しかし、今はまだ、そんな事を彼に云う時ではないと思うていた。
ある日、庸介が自分の部屋の涼しい縁側の所へ籐で組んだ寝椅子を持ち出して、その上で午睡に陥っていた時、郵便配達夫が一枚の端書を玄関の中へ投げ込んで行った。房子がそれを受取った。それは庸介へあてたので差出人の名前の代りに、兄が下宿していた旅舎の商用のゴム印が捺されてあった。