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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
」
「崇き憤り!」
「際涯なき自由!」
彼は、ついに、一つの句さえ満足に云えないようになって行くのであった。そして自分の云っている事が自分ながらあまりに乱暴で、粗雑で、あまりに空元気のような気がしてならなかった。
老医師は、おいおいと、自分の息子があまりに激越してゆくさまを愍れに感じ出すのであった。そしていつの間にか、話題を巧みに他に滑らし行くのであった。
庸介は、これらの議論の後に心の中で、静かに、
「いつか、俺の考をちゃんと纒めて書いてみよう。」こんなふうに云う事もあった。しかし、筆を執ってみると、各の思想と、各の思想との間には常に千万の距りや矛盾やがあるように思われたり、言葉と言葉とがおたがいに相続き合う事を妙に拒みでもしているように感じられたりしていつも五行と書き進める事ができなかった。やがてその原稿を引裂いて投げ捨ててしまうのであった。
時にはまた、父は静かな調子で「家」の事を庸介に話して聞かせた。
この家では、いまだに相続する人が定っていなかった。というのは、長男の豊夫というのが今から十年ほど前に家出をして、そのまま今に、帰って来る事やら帰って来ないものやらそれさえ明らかでないのであった。