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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
こう思うて急に口を噤んだ。自分の無分別がたまらなく口惜しかった。で、彼は、まるでお詫びでも申上げるように、
「お母さん、これはみんな、いつもの私の出鱈目なんですよ……馬鹿な、そんな事を云い出しっこはなしにしましょう。ね、みんなじょうだんなんですよ。……それに私のような者が何を云ったって、どうなるもんでもありゃしないじゃありませんか。」と云った。
何もかもこの一言で、今まで云った事をすっかり烟にして掻き消したいものだと願った。
八
太陽が地平線へ沈んだあとのしばしが間の野のながめ、その美しさ、その静けさはまた何に譬えよう。……畑中の並木が紫に烟り、昼間は藍色に見えていた遠くの山々が、今は夕栄えの光りを受けてほとんど淡紅色と云い得るまでに淡く薄い色になってゆく。まるで(色づけられた気体)と云ったように……あたり一面に低く白い雲が下りて来る。野の末は次第に空と溶け合い、そしてそこからやがて静かな重い夜が迫って来る。するとそれを待ちかねていたかのように村々の寺からつき出す鐘の音が、一時に長く鳴り出す。平安の夕べを讃美するように、またこの平安の耕原を祝福するかのように、あとを曳いて遠く物静かに響きわたる。