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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

おいおいに目がちらついて来た。ランプの光線の赤いのが、たちまちにいっそう際立って来たように感じた。障子の桟が不規則に幽かに揺ぎ出した。これ等はすべて彼には愉快であった。……と彼の目の前に女の顔が一つぷいと浮び出して来た。「房子だ。」と思う、とすぐにまたぷいと消えて行った。と思うとまた現われて来た。「おや、お志保だ。」かと思う間に今度はそれが母の顔に変った。そんな事を幾度か繰り返した。と、最後に現れたお志保の顔が、彼の目をじーっと視詰めてにっこり笑った。それを見ると、庸介もおもわず同じようににっこりとした。そして、

「十七だというが、年の割には大人だ。――いや、あれはまだ子供だ。おそらくは何にも知っていはしない。」こんな事を囁いた。

目をつぶって、もう一度お志保の顔を求めた。が、どうしてもそれはもはや見られなかった。グラスを取り上げて一杯のみほして、びりびりする唇をぷーっと吹いた。

「否、俺は遠からず上京するであろう。そしてそれっきり、再びこの土地へは帰って来ないかも知れない。そうだとも、俺は遠からずこの地を出発とう。数週ののち、しからざれば数カ月の後、……そして今度こそは本当に勇敢に餓死と戦うのだ。