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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
こうした気候の変り目に、ちょっと不用意をしたために風邪をひいてある日とうとう床を起き出る事ができなかった。彼は寝ながら、これまで書いて来たたくさんの原稿の中からあれこれと引き出して読みかえしたりして一日を暮らした。その翌日も快くはならなかった。その日も前の日と同じような事をして寝ていた。が、しまいにはそれにも倦いて来た。何にもしたくなかった。で、原稿を枕元から押しやって静かに目をつぶった。
とりとめもない事を小一時間も思いめぐらした後で、彼は小さな声で囁いた。
「俺もずいぶんといろいろな事をして来た。……ところで、どこと云って美しい部分というものが一つもない。」
実際、彼には、自分や自分達のして来た事、なし得た事のすべてがあまりに醜かったように思われたのであった。よく「美しい少年時代のあこがれ!」と云うような事が云われているが、今、彼の心には自分の少年時代が決してそんな姿をしては映って来なかった。その頃を思い出せば何もかもがあまりに浅墓すぎ、あまりに分別が無さ過ぎ、あまりに意地っ張り過ぎていて、一つとして慙愧の種でないものはなかった。
「これから先もやはりこの通りであるかも知れない。