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ゆふいんこう
由布院行
中谷 宇吉郎
「社会及国家」1926(大正15)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,779 字 · 14 页
伯父の家の画帳も勿論その厄を蒙っていた。
この前も、九州大学の先生を連れて来たことがあったそうである。大学の先生ときくと、いつでも伯父は、「忰が――私のことを忰というのである――東京で、T博士の助手をして研究をしておりますわい」と自慢をするのだそうである。後で先生の所へ来た葉書で、九大のK博士ということが知れたのであるが、随分びっくりされたことだろうと思ってちょっと可笑しかった。
私が行っている間にも、KKさんが来た。雨上りの田の畔をいい気持になって散歩をして帰って来たら、「今帰らっしたところじゃがKKという人が来たが、東京の人だそうだがお前知ってるか」という。「それは大分有名な小説家ですよ。会ったことはないが、名前はよく聞いています」というと、伯父は道理で大分物の分った人だと思ったと褒めながら、画帳を開いて見ている。見ると、何やら歌が書いてある。
何でも、伯父の作った胡瓜の漬けたのを、美味い美味いといって随分沢山食って行ったことと、それからこれも伯父の趣味であろうが、ここの浴室は、全然離れた庭の端の金鱗湖のすぐ畔の所に、亭のように一棟立っているのであるが、その浴室のことを大変簡素でいいと褒めて行ったのだそうである。