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こうしゅうぐんないようかいじけんとりしらべほうこく
甲州郡内妖怪事件取り調べ報告
井上 円了
「東京朝日新聞」1894(明治27)年5月8、9、11、12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,934 字 · 18 页
されば、その戸主杉本氏もやはり、しか信ぜしなり。しかるに、ある二、三の人は、これをもって狐狸等の憑付にあらずとなし、全く女子自ら故意にこの怪事をなすものと信ぜり。しからばすなわち、この怪事に関して該地方の人がいだける想像説には、憑付説と故意説との二種ありといいて可なり。また、局外者の評するところをみるに、この両説はいずれも別に確実なる根拠を有するにあらず、全く真の憶測にほかならざれば、いまだにわかに信ずべからず。
まず、憑付説につきて疑わしき点を指摘せんに、もし果たして狐狸等の類がその女子に憑付せしものならば、必ずその女の精神作用において、多少の変態異常なくんばあるべからず。しかるに、その女の言語、動作を熟察するに、かつて常人と異なるところなく、毫も精神異常の徴候を発見することあたわざるはなんぞや。さりとて、故意説にもなお疑わしき点なきにあらず。その故いかんというに、かの女子は、元来無教育の者なれば、決して予言、察心の力あるべきはずなく、したがって他人の問いに対し相応の答えをなさるべき理なし。特にその怪声は一種奇怪の声にして、女子の口より発するものとは思われず、さりとてまた、その女の体内より発するがごとくにも聞こえざればなり。