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こうしゅうぐんないようかいじけんとりしらべほうこく

甲州郡内妖怪事件取り調べ報告

井上 円了

「東京朝日新聞」1894(明治27)年5月8、9、11、12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,934 字 · 18 页

青空文庫

その談話によるに、かの怪声は、必ずかの少女の身辺において発し、少女のおらざる所にては決して聞くことなし。かつ、かの怪声は、最初の間は杉本氏の宅においてのみ聴くことを得たりしが、後にはかの少女の至りし所には、いずれの家にてもこれを聴くに至れり。現に中村氏の宅にても、かつて彼女の来たりしとき、これを聞けりという。これによりてこれをみれば、かの少女と怪声との間に密着なる関係あること明らかなり。

よって、予のこの怪事研究の第一着として、かの少女の身上につき精細なる観察を下し、かつ適当なる試験を行わざるべからずと思惟し、まず杉本氏につきて同女の履歴をたずねしに、彼女はその名を「とく」といい、同国都留郡小形山の産にして、早く父をうしない母の手に育てられしが、十一歳のときより杉本氏の養女となり、爾来七年の間その家に養われ、今年まさに十八歳になれり。しかるに、近年その実母、小形山を去りて駒橋と称する所に移り、ここに一家を借りて住す。駒橋は大目村より道程およそ四、五里を隔てて、甲府街道に沿える村なるが、いかなる故にや、「とく」は近来しきりに、大目村を去りて駒橋なる実母の方へ帰らんことを望み、実母もまたこれを取り戻さんと願えども、杉本氏の方にてさらにこれを承諾せざれば、「とく」