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こうしゅうちんぶたい

甲州鎮撫隊

国枝 史郎

「講談倶楽部」1938(昭和13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,891 字 · 28 页

青空文庫

女は、夜具の襟を、総司の頤の辺まで掛けてやり、襟から、人形の首かのように覗いている総司の顔を見ながら、枕元に坐っていた。慶応四年二月の夜風が、ここ千駄ヶ谷の植木屋、植甚の庭の植木にあたって、春の音信を告げているのを、窓ごしに耳にしながら、坐っていた。

夢の中の人々

「お千代!」

と不意に、眠った筈の総司が叫んだ。女は驚いたように、細い襟足を延ばし、男の顔を覗込んだ。

「お千代、たっしゃかえ! たっしゃでいておくれ!」

と又総司は叫んだ。でも、その後から、苦しそうな寝息が洩れた。眠りながらの言葉だったのである。女はニッと笑った。遠くの方から、半鐘の音が聞えて来た。脱走の浪人などが、放火したのかもしれない。女はソロソロと、神経質に、部屋の中を見廻してから、懐中へ手を入れた。短刀の柄頭らしい物が、水色の半襟の間から覗いた。

「済まん、細木永之丞君!」

と又、眠っている総司は叫んだ。

「命令だったからじゃ、済まん」

女は眼を据え、肩を縮め、放心したように口を開け、総司を見詰めた。

「済まんと云っているよ。……それじゃア何か理由が……然うでなくても、この子供っぽい、可愛らしい顔を見ては。