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こうしゅうちんぶたい
甲州鎮撫隊
国枝 史郎
「講談倶楽部」1938(昭和13)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,891 字 · 28 页
と、印袢纏に、向鉢巻をした留吉は、松の枝へ、一鋏みパチリと入れながら云った。
お力は、簪で、髪の根元をゴシゴシ引掻いていたが、
「何よ」
「沖田さんのご介抱によく毎日……」
「生命の恩人だものね」
「そりゃアまあ」
「あの晩かくまっていただかなかったら、斬合いの側杖から、妾ア殺されていたかもしれないんだものね」
「そりゃアまあ……」
「それに沖田さんて人、可愛らしい人さ」
「へッ、へッ、そっちの方が本音だ」
「かも知れないわね」
「あっしなんか何んなもので」
「木の端くれぐらいのものさ」
パチリ! と留吉は、切らずともよい、可成り大事な枝を、自棄で、つい切って了い、
「ほいほい、木の端くれか、……と、うっかり木の端くれを切ったが、こいつ親方に叱られそうだぞ。……と、いうようなことはお預けとしておいて、木の端くれだなんて云わずに、どうですい、この留吉へも、……」
お力は返事もしないで、木間を隙して、離座敷の方を眺めた。
その離座敷では、沖田総司と、近藤勇とが話していた。
勇が来訪たので、お力は、座を外したのであった。
勇の説得
この離座敷へも、午後の春陽は射して来ていて、柱の影を、畳へ長く引いていた。