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おとこぎらい

男ぎらい

豊島 与志雄

「苦楽」1949(昭和24)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,878 字 · 18 页

青空文庫

井上さんは何とも言わず、よたよたと梯子段を昇ってゆきました。

私は起き上って、体中、着物をはたはたとはたきました。それからまた、顔から首まで洗い、手を洗い、足も洗いました。胸がむかついてき、残ってるウイスキーを、やけに飲んでやりました。どこもここも、男くさくって、穢ならしいのです。そればかりでなく、妙に恐ろしくさえなりました。どんなことが起るか分りません。なにか真黒な怪しいものが、いつ襲ってくるか分りません。えたいの知れない厭らしい恐怖です。

私はウイスキーを飲んでやりました。何の役にも立たないかも知れないが、クマを檻から出して土間に放ってやりました。クマは土間を嗅ぎまわって、また檻の中にはいってゆきます。私はそれを蹴りつけてやりました。それから布団を引きずり出し、着物のまま頭から被りました。

表に二三人の足音がします。足音はうちの前で止りました。戸によりかかって、とんとん叩きました。

「もう寝たんですか。」

酔っぱらってると見えて、大きな声です。

「もう寝たんですか。」

とんとんと叩きます。

「美枝ちゃん、美枝ちゃん、ちょっと開けてくれ。僕だよ。」

こんどのは、倉光さんの声です。