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まちのてんぼう

町の展望

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,428 字 · 6 页

青空文庫

宵は水のようだから、若い玄人じみた女の声は耳の傍に聴える。

「もしもし姉さん、私……わかった? 今ねえ私中西屋さんに居んのよ、よれよれって云うんだもの……姉さん来ない? え? いらっしゃいよ、よ、ね?」

「おいおい」

これは太い男の声が割り込んだ。

「何だって? ハッハッハッ、そんなこたどうでもいいから来いよ、風邪なんか熱いの一杯ひっかけりゃ癒っちゃう、何ぞってと風邪をだしに使いやがる。――う? うむ、そうさ。――じゃ待ってるぞ」

再び森閑とした夜気。――私共は炬燵にさし向いの顔を見合わせ、微笑んだ。こちらのささやき。

「地方色よ」

「余り静かだからいい景物だ――でも、わるい妓だな」

程なく

「ああ冷えちゃった」

立ったまま年増の女の云う声がした。

「お待ち遠さま、今日はごたごたさ、鮪の買い出しが足りなくって騒ぎゃるし、源ちゃんは病院へ行くって出たまんまいつまで経ってもかえんないし……あああ」

ふっと、私は笑いたくなった。そして云った。

「本当の姉妹かしら――所帯じみてるのね」

「ふうむ――分らない」

「いつ頃っから来てるの、へえ、まあいいやね」

そんな声がする。