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ちょうないのにてんさい

町内の二天才

坂口 安吾

「キング 第二九巻第一四号」1953(昭和28)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,836 字 · 26 页

青空文庫

「オッ。乙なことを云うじゃないか。源次にしては上出来だ」

「テメエの面ア見るとヒゲの代りに鼻をそいでやりたくなッちまわア。鼻は大事だ。足もとの明るいうちに消えちまえ。今日限り隣のツキアイも断つから、そう思え」

「そいつは、よくねえ。残り物の腐った魚の始末のつけ場がなくならア」

「なア。よく、きけ。キサマの口の悪いのはかねて承知だが、云っていいことと、悪いこととあるぞ。ウチの正坊の将棋がモノにならねえと云ったな」

「オウ、云ったとも。云ったが、どうした」

それまで落ちつき払っていた金サンが、ここに至って真ッ赤になって力みはじめたのは、曰くインネンがあるらしい。

「お前に将棋がわかるかよ」

「わかるとも。源床の鼻たれ小僧が天才だと。笑わせるな。町内の縁台将棋の野郎どもを負かしたぐらいが、何が天才だ」

「町内じゃないや。人口十万のこの市に将棋の会所といえば一軒しかねえ。十万人の中の腕の立つ人が一人のこらずここに集ってきて将棋をさすのだ。縁台将棋とモノがちがうぞ。正坊はな。この会所で五本の指に折られる一人だ」

「そこが親馬鹿てえものだ。碁将棋の天才なんてえものは、紺ガスリをきて鼻をたらしているころから、広い日本で百人の一人ぐらいに腕が立たなくちゃアいけないものだ。