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くじょしょうろく
痀女抄録
矢田 津世子
「改造」1939(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页
娘たちは声を立てて笑う。その笑い声の歇まないうちに、寿女はかぶせて尚も続ける。それでも帰りかけるものがあると、うろたえて奥へいって茶を掩れてきたり、通りまで駈けて行って、せいせい言いながらパンケーキだの今川焼だのを奢ったりする。
母親といるときでも、こうであった。母親が用達しに出かけようとするたびに、寿女は厭がって、やらせまいと纏わりつく。留守の間は、店に坐って針の手を動かしているかとおもうと客を引き止めて立話しをしてみたり、店さきに出て何度も通りのほうを覗いたり……凝っとしている時が無い。
妙な子だと母親は笑いすごしていたが、出かけることがだんだん億劫になる。或る夜のこと、厠へ立った寿女が突然けたたましく声を立てて駈け戻って母親にしがみついた。壁にうつった自分の影に吃驚したということが分って、笑い話になったが、それからというもの母親は置いて出かけることを全くしなくなった。
寿女が胸を叩いて燥ゃぎまわる日がある。近所の娘たちに誘われて、近くの映画館へ行くときであった。念入りに髪をゆうて顔を刷いて、母親に帯を結んでもらって、ひっきりなしにお喋りをしながら家を出る。