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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

の著あり。

わたくしは未だ奥住女史のステージの声に接したことがない。知人たちの噂によると、その歌いぶりは、稍堅実を欠いて奔放に流れがちだという。難曲といわれているものをも易々と歌いこなす度胸には愕かされるが、奥住龍子の一種の人気は、このステージ度胸で煙にまくところらしいともいう。

わたくしはレコードを通してその歌を聴いた記憶があるけれど、もう、ずいぶんと前のことで、その歌いぶりも歌曲がなんだったやらも憶えていない。そういえば、奥住女史が何処かのレコード会社の専属だということもきいているから、吹き込んだものも多分にあるに違いない。

せんだって、週刊雑誌のゴシップ欄に、写真入りで、奥住女史のことが出ていたけれど、若い燕と相携えて、再度の渡独、というような見出しがついていた。

わたくしの知人の娘で、早くから奥住女史に師事しているひとがあって、よく噂をきかされるが、女史の門に入るのは非常に難しいと評判になっているようである。それは入門する際の素質ということよりも、家柄格式ということが第一条件におかれているからで、女史の説によると、折角の素質の芽が途中で萎えてしまうのは、それを育てる土が貧しいという場合が多い。