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しろいあさ

白い朝

豊島 与志雄

――「正夫の童話」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,920 字 · 35 页

青空文庫

顔をそこに埋めてしまったら、息がつまりそうな芳ばしい胸です。そうなりたいのです。いやいや……と云うように、駒井さんは正夫を抱きあげます……。

ぱらぱらと、かすかな音が戸外にしています。また雨が降りだしたのでしょうか。それに耳を傾けていると、その音だけになってしまって、外のものは凡て、宙に消え失せてしまいます。

少しも眠らなかったのでしょうか、いくらか眠ったのでしょうか、それがよく分りません。なにかぼーっとした明るみが戸外にたたえて、かすかに物のざわめく気配です。

正夫はそっと起き上りました。駒井さんの瞼がちらちら動いて、そのままじっと静まり返りました。ちっとも瞬きをしない深々とした眼差です。それだけで、駒井さんは何とも云いません。

正夫は縁側に出て、雨戸を一枚あけました。

ただ一面に仄白い夜明けです。霧とも云えないはどの微細な水気が、薄くたなびいていて、それがあらゆるものに仄白い衣をきせています。

正夫は外にとびだして、大きく伸びをしました。駒井さんとの間に、別に恥しいことがあったわけではありません。恥しいことはなんにもなくて、この仄白い霧のようなものに浸ったのでした。