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しろいつばさ

白い翼

宮本 百合子

「近代風景」1927(昭和2)年2月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 2,369 字 · 5 页

青空文庫

然し、その彼方にいる彼女をどうして見失うことがあろう。雄鳩は、始めて雌を見たと思った時より、更に情熱のこもった歓びで、

「グウックー、グウックー」

と喉を鳴らした。彼は嬉しさと慕わしさとで脚を高くあげつつ鏡に近づいた。同時に向うからも近づく、如何にも見覚えある白い姿を見た。雄鳩はいつかの夜棲り木の上から雌を呼んだ時の通りの声で、親しげに軟かく彼女に呼びつづけた。愛のしるしに飽かず嘴で触った。たとい何だか様子の異ったものとなったにしろ、ここに雌はいた。彼はもう孤独でない。過ぎ去った夜々のように彼はここで、雌の隣りに冬の夜を眠るのだ。

雄鳩は出来るだけぴったり鏡の中の自分の影に身をすりよせた。彼の不思議な妻は冷たかった。――非常に冷たかった。ああ。然しそれは何でもないことだ。雄鳩は、瞼を閉じた。彼はもう一度雌に寄りそいなおしてから、首を羽交の間に埋めた。