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しろいかや
白い蚊帳
宮本 百合子
「中央公論」1927(昭和2)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,800 字 · 18 页
「晩に上るもの、何か拵えた?」
と訊くと、
「いいえ、何も致しませんでした。召上りたくないと仰云いましたから……」
雇人と、あとは小さい娘とだけで病床にいる母の境遇がなほ子の心に迫った。
おそくなって、野菜スープやサラドを運んで行ったが、まさ子は、悦び、
「美味しそうだこと――御馳走になって見ようか」
と云うばかりで、ほんの一口飲み下しただけであった。彼女は、なほ子を落胆させまいとして云った。
「明日にでもなれば、きっと味が出るだろう」
父親と二人になった時、なほ子は本気になって専門医に見せることを勧めた。
「何でも糖尿病と更年期に押しつけて置いて、ほんとに手後れにでもなったら大変よ」
昌太郎は、
「うむ、うむ、いやその通りだ」
と、頷いた。が、その手筈を決める決心はつかないらしかった。なほ子は、祖父の癌であったことからそれを気にしているのであったが、まさ子は、そんな疑いを頭に置かないし、置いているとしても彼女は第一医者に信用を置いていなかった。十三年ばかり前、癌だと云われ、切開されそうになった経験があった。その時、まさ子はその方面では大家である専門医と議論し、頑張って到頭切開させなかった。