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しらねのふもと
白峰の麓
大下 藤次郎
「みずゑ」1910(明治43)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页
三人で食事にかかる、手ランプには少し油があったので、それをともす。写生箱は膳の代りとなり、筆は箸になる。二つの縁の壊けた茶碗、一つには飯が盛られ、一つには汁がつがれた。宗平兄弟は「メンパ」とよぶ弁当箱を出して、汁を上から掛けては箸を運ぶ。
土もついているらしい薯の汁も、空腹には珍味である。山盛三杯の飯を平げて、湯も飲まずに食事を終った。彼らの手にせる「メンパ」というのは、美濃方面で出来る漆で塗った小判形の弁当箱で、二合五勺入りと三合入りとある。山へ出る時は、二つもしくは三つを持ってゆくという。彼らの常食は、一日七、八合、仕事に出た時は一升が普通だときいては、如何に粟や稗の飯でも、よく食べられたものだと感心する。
十四
山小屋の秋の一夜。私はツルゲネフの『猟人日記』を思いうかべつつ、再び遭うことの難かるべきこの詩的の一夜を、楽しく過さん手段を考えた。
窓近くに鹿が鳴いたら嬉しかろう。係蹄で捕れた兎の肉を、串にさして榾火で焼きながら、物語をしたら楽しかろうと思った。囲炉裡の火は快よく燃える。銘々長く双脚を伸して、山の話村の話、さては都の話に時の移るをも知らない。