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しらねのふもと

白峰の麓

大下 藤次郎

「みずゑ」1910(明治43)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页

青空文庫

そして床の落し掛けから、ホヤの欠けた、すすけたランプが憐れっぽく下っている。

主人夫婦に子供二人、その姉娘は六ツばかりになろう。この「ボコ」はその名を「よしえ」とよばれて、一方ならぬお茶ッピーだ。小さな火鉢に、榾火の燃き落しを運んで来る。「官員サンに何か出さねーとわるいぞよ――、小寒いに――、火でもくれないとわるいぞよ」という。洋服を着けた人は誰でも官員サンである。

二十

よしえのいう通り、この小寒いのに、少しばかりの消炭ではやりきれない。灰が起つので帽子を冠ったまま囲炉裡の傍へゆく。退屈紛れに、このお茶ッピーでもと思って、スケッチブックを出す。おかみさんはこれを見て「よしえ早く隠れろ!」と、けたたましい声で叫ぶ、「そんな見ぐさい風して写されては叶わんぞ。池の茶屋の『ボコ』はこんなだと、東京へ持って帰って話されたら困るに、早や着物を着かえさすに、こっちへ来う」という、「あの黄八丈の着物かや」とよしえは大喜びだ、大変なことになってしまった。明日だ明日だと、私は大急ぎにスケッチブックを袂に蔵った。

亭主は小さな「ボコ」を抱いて、囲炉裡で飯を炊ぐ。