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はくじつむ

白日夢

豊島 与志雄

「新小説」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,672 字 · 23 页

青空文庫

彼はすっかり狼狽しきって、丁度私と同じように、こそこそと逃げ出してしまったそうである。

「あなたの御主人の方は家だからいいが、私の方は他人の細君だから、そりゃあ弱りましたよと、そう云って笑っていらしたわ。そして、これを御縁にちょいちょいお遊びに来て下さいって……。」

「そりゃ皮肉なのかい。」

「いいえ本気よ。」

「へえー。」

だがその時、私は俄に元気づいて、勢よくはね起きたのだった。そして水をじゃあじゃあ頭に浴せると、愉快な晴々とした気持になった。

「おい、これから時々間違えて、二人で隣りへ押しかけてゆこうじゃないか。」

「何を仰言るのよ、すぐ図にのって。」

「それから、隣りでその外に何か云ってはしなかったかい。」

「いいえ別に……。」そして彼女は一寸考える風をした。「ただあなたと同じことを云っていらしたわ。二軒共余りよく似ていて、不思議なほど同じだって……。」

不思議なほど同じ……そう私は心の中で繰返して、すーっと日が陰ったような、一寸怪しい心地がしてきた。こうしていても、私の家へだって、いつ間違えて他人が飛び込んで来ないとも限らない。私の妻が、いや殊によると私までが、いつ他人から人違いをされないとも限らない。