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はくもくれん
白木蓮
豊島 与志雄
「芸術」1947(昭和22)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页
――喜美子はそんなことには頓着しない。梶山さんといえば、すぐに桃代姐さんだ。ああいう独語のあとでも、桃代姐さんだ。
桃代はやって来るのに手間取った。来た時は、少し酔っていた。ちょっと指先をつき、挨拶をして、食卓の横手にひたと坐る、それまではまあ形式だが、それから先もいやにしんみりしている。
「梶山さん、わたし今日はあやまるわ。御免なさい。」
私の方は見ないで、眼を伏せている。
「すこし、喜美ちゃんをいじめすぎたらしいのよ。」
「そんなことなら、僕にあやまることはないじゃないか。」
「そうだけれど、梶山さんにも関係があってよ。昼間、焼け跡で、梶山さんと何の話をしてたかと、いくら聞いても、何の話もしなかったと言うんでしょう。長い間二人でいっしょに腰掛けていて、口を利きあって、それで何の話もしないなんて、そんなことがあるもんでしょうか。でも、どうやら喜美ちゃんの言うのがほんとらしいわね。」
「ああ、あれか。なるほど、喜美ちゃんはうまいことを言うね。野原のことや、川のことを、僕が独りで饒舌ってたんだ。喜美ちゃんは聞いてたかどうかも分りゃしない。まったく、何の話もしなかったわけだ……。