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はくもくれん
白木蓮
豊島 与志雄
「芸術」1947(昭和22)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页
「あれ、喜美ちゃんが持って来たの?」と私は尋ねた。
喜美子はもう泣きやんでいて、すがすがしい感じの頷き方をした。
「あの花、たいへん好きだったわ。だから、あたし、活けてあげたの。前にも、なんども持ってきたわ。」
それは私も知っている。――加津美の狭い庭に、分不相応とも言えるほど大きな木蓮の木がある。板塀より高く、低い植込みの上に、すくすくと伸びあがり、枝を拡げていて、春先には、真白な大輪の花を一面につけ、あたりに芳香をまき散らす。その花を、喜美子は桃代に持ってってやった。私も二度ばかり、花の小枝を折り取る役目をさせられた。だがこの花、活けるには厄介な枝ぶりで、桃代と喜美子はそのためにずいぶん時間をかけた。
「ご免なさい。お待たせして……。でも、あれ、活けるのに面倒よ。」
一人で待ちくたぶれて、そして飲んでいると、桃代は上気した顔でやって来て、二階の座敷のすぐ前面に馥郁と咲き匂ってる木蓮の方へ、私の方へではなく、笑顔を向けるのだった。
彼女の家に、私は行ったことがない。なぜなら、私は彼女の旦那ではなく、そして彼女には、めったに来ないがとにかく旦那と名のつく人がいた。