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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

「週刊朝日 第二十一ノ十六号(春季特別號)」1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,880 字 · 62 页

青空文庫

もう一息、目を眠って、――直さん……」

(――直さんの意味詳ならず。談者、境氏に聞かんとして、いまだ果さざる処である――)

「ね、色悪で、あの白々とした甘い膚を貸すとなりゃ、十倍だわ。三百、五百、借金も勘定も浮いて出るじゃあないかねえ。」

酒と、女か、目にも口にも借りのある、聾桟敷のとんちきも、むらむらとして、我ながら姿見に色が動いた。

「何をいってるんだ――同伴はないよ。」

「あら。」

「誰も居やしない。」

「まあ。」

「私一人じゃあないか。」

「おやおやおや。」

「何を見たんだ。」

「ふん、しらじらしい、空ッとぼけもいい加減になさい。あなたがそういう了簡なら、いいから私は居催促をするから、ここへ坐っちまいますから、よござんすか。」

これこの十九貫、廊下へ、どすんと坐りかねない。

「仕方がない、じゃあ、ほんとうの事をいおう。」

「いわないでさ。そして、ちょっと顔を貸しますか、それとも膚を……」

「顔にも、膚にも……それは煙だ。」

「またかね、居催促ですよ、坐りますから。」

「あれは霞だ、霧なんだよ。」

「煙草のかねえ。」

「いや芸妓の……幽霊だ。」

「ええ。」

「この大入に、けちでもつけるようで可厭だから、いいたくはなかったんだが、どうもそうまでいわれりゃしかたがない。