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はっけっきゅう

白血球

豊島 与志雄

「良婦の友」1921(大正10)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,538 字 · 24 页

青空文庫

手にマッチとアルコール瓶とを持っていた。彼は押入に歩み寄ったが、二三寸閉め残されてるその襖を見てぎょっとしたように立ち竦んだ。それからびくりと肩を聳かして、押入の襖を開き、老人の死体を確かめた。そしていきなりアルコールを、襖や障子に振りかけて、そこへ火をつけた。蒼い焔がめらめらと広がるのを見定めて、彼は向うへ姿を隠した。

三十分とたたないうちに火焔は一面に室を包んだ。それからその家を包んだ。家の棟が焼け落ちる頃になると、焼け壊れた押入の一枚の板を、火と灰との海の中の小舟のようにして、老人の死体は静に乗っかりながら、じりじりと焼かれていった。が、半焼のうちに消防夫の手から掘り出された。

その幻影は、中井刑事の予想に反して、晋作や秋子にとっては、あらゆる妖怪変化よりも、更に恐ろしく更に不気味だった。

彼等はその翌日、見当り次第の空家へ、一時の我慢だとして、すぐに引越してしまった。前の家のことを考えると、ぞっと冷水を浴びるような心地がした。そして、移転した汚い家の荷物の散らばった中に、ほっと腰を落付けながら、遠い幻影をなお頭に浮べて、何とも云えない表情で互に眼を見合った。