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しらがこぞう

白髪小僧

杉山 萠円

「白髪小僧」誠文堂、1922(大正11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,770 字 · 194 页

青空文庫

するとこの時不意に化粧部屋の扉を開いて中に駈け込んで、驚く間もなく濃紅姫を抱き締めて――

「お前はどこにも遣らない。どこにも遣らない。死ぬまでこうやって抱いている」

と叫んだ人がありました。それは濃紅姫のお母様でした。

お母様は今朝二人の小供が、世にも恐ろしい不思議な死に方をしたのを眼の前に見て、狂気のようになってしまったのでした。そうしてたった一人あとに残った濃紅姫を、どこにも遣るまいと思って、こうして抱き締めたので御座います。けれども濃紅姫はそんな事は知りませんから吃驚しまして――

「アレ。お母様、どう遊ばしたので御座います」

と叫ぼうとしましたが、この時遅く彼の時早く、直ぐにあとから今度はお父様が駈け込んでお出でになりました。そうしてものをも云わずお母様から濃紅姫を無理に引き取って、その手をぐんぐん引きながら表へ出まして、用意の出来ている白馬三頭立ての花で飾った馬車へ乗せると、直ぐに馭者に向って――

「さ。一時も早く王宮へ行け。濃紅。驚く事はない。訳はあとでわかる。それより早く王宮へ行け。お前は紅木公爵の娘だ。決して意久地のない顔をするな。悲しい顔をするな」