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しらがこぞう
白髪小僧
杉山 萠円
「白髪小僧」誠文堂、1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,770 字 · 194 页
そこは丁度鏡を取り上げた船の上の景色で、荒れ狂う波の上には、月の光りが物凄く輝いて、化物の姿を照しておりました。
「何だ。これが美留藻の許嫁の香潮という奴か。何という恐ろしい姿であろう。此奴が今に美留藻が俺の后になった事を知ったならば、嘸俺を怨む事であろう。成程、これは面白い。赤鸚鵡赤鸚鵡、何卒して此奴が死なないように考えて話してくれ。そうして俺に刃向って、大騒動を起すようにしてくれ。こんな珍らしい化物を無残無残と殺しては、面白い話しの種が無くなる。相手に取って不足のない化物だ」
と叫びました。すると赤鸚鵡は静かに答えました――
「はい、畏まりました。もとより御言葉が無くとも香潮の身の上は今に屹度そうなって参ります」
この言葉の終るか終らぬに又鏡の中の様子が変って、今度は広い往来が見え初めました。その往来の左右はどこかの青物市場と見えまして、大勢の人々が、新らしい野菜や果物を、忙しそうに売ったり、買ったり、運んだりしています。そこへどう迷ったものか、白髪小僧が遣って来ましたが、見るとこの間の通り顔は焼け爛れて、眼も鼻もわからず、身には汚い衣服を着て、鈴や月琴を一纏めにして首にかけ、左手には孔の無い笛を持ち、右手には字の書いてない書物を持っておりました。