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ひゃくゆきょう

百喩経

岡本 かの子

「三田文学」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,474 字 · 21 页

青空文庫

小児得二大亀一喩

この辺で亀は珍らしかった。こどもはそれを捉えた。用心して棒切で押えて縄で縛った。

こどもははじめて見るこの爬虫類を憎んだ、石の箱のなかに首も手足もしまって思い通りにならない。ひっくり返せばそのままひっくり返って居る。こどものリズムとテムポが合わないもどかしい退屈な動物だ。

それにこどもはこの動物を危険な動物とも見た。なにしろ手足に爪が生えている。口には歯もある。危害を隠しているこの醜いものを殺して英雄になり度い気持ちがこどもに強く湧いた。こどもは勇気を揮って石を二つ三つ亀の上へ投げて見た。亀は死ななかった。

通りがかりの人があった。

「それは、水のなかへ入れるが宜い。一番早く死ぬ」

こどもにこう教えた。

(おとなというものは真赤な嘘をこどもに信じさせるときにいくらか自分もその気になるものだ。とうとう本当にその気になって仕舞うこともある。)

こどもは亀を池の中へ入れた。背中に模様のある石は一たん水の中に沈んでそれから浮いて水草の間に手足を働かした。

「やあ、苦しんでやがる」

惨虐な少年の性慾は異様な満足を感じた。

おとなの嘘から少年の中に綻びた性慾の赤い蕾は、やがてお町、鏡子、おふゆ、というような女に苦労をさす種となった。