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ひゃくしょうやのすけのはなし

百姓弥之助の話

中里 介山

01 第一冊 植民地の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页

青空文庫

そのうちに席が一つ空いたから弥之助は其処へ割り込むと、ひょっこりその前へ現われた背広服の青年が、うやうやしくあいさつした。

「先生どちらへお出でですか」

「やあ小山君か」

と云うのをきっかけに二人はそこで立話をした、この青年は去年上野の美術学校を出た秀才でかっぷくのいい形をして居た。

「どうです、君なんぞは兵隊の方は」

と尋ねると、青年は答えた。

「覚悟はして居ますけれどもまだ召集がありません、私達の同窓にはすでに召集されて出征した人もあり戦死者もあります、美術出身でもう十五名は召集されて居りますが、その内五名は戦死と云うことが解りました。僕の親友であったSと云う青年が、校中の人望家でもあったし人物も立派で気象も秀れて居て柔道も三段でありましたが、上海でとうとうやられてしまいました、しかもその男は同郷の資産家の一ツブ種です、僕の様な次男坊でどうでもいい人間は無事健在でああ云う人間がやられるのだから感慨に堪えません」

と小山青年が云った。弥之助はそれを聞いて、

「うーん」

と口を結んだ、いま、日本の内地へは爆弾一つ落っこちて来るのではない、実感的に何等驚破される非常時現象が眼の前に展開されている訳ではない、こうして平和そのものの秋の夕ぐれの武蔵野の中を走る電車は明朗な青年たちで張り切って居る、然し彼等とても全く米の価を知ら