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ひゃくしょうやのすけのはなし

百姓弥之助の話

中里 介山

01 第一冊 植民地の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页

青空文庫

武蔵野の西端の広っぱの一戸建の構えになっている。南に向いている弥之助の眼の前は畑を通して一帯の雑木林が続いて、櫟楢を主とする林木が赤に黄に彩られている、色彩美しいと云わなければならぬ。その雑木林から崖になっている多摩川沿いに至るまでの間がここの本村になっている、東西は一里、南北は五町乃至十町位のものだろう。そこで多摩川を一つ越すと、それが前にいった通り秩父山脈の余波が、ほぼ平均した高さを以て何里となく東へ足を伸ばしている、だから百姓弥之助の建物のある地盤から見ると「ここは高原の感じがする、山を下に見る」といって山住居をしていた或る学者が来て、不思議そうに眺めたことがある。無論高原というほどの地点ではない、武蔵野の一角に過ぎないが、例の秩父山脈の余波の山脚が没入している山の裾よりも原野が高くなっているところを見ると、成るほど薬研のような山谷から来た人の眼には高原と云った感じがするかも知れない。

さて、百姓弥之助はいつも見飽きているこの植民地のような風景が、今日はバカに美しいと感じながら、暫くボンヤリと眺めていると、崖下の本村の方から楽隊の音が聞こえ出してゾロゾロと人が登って来る、続いて軍歌の音が送り出されて来る。