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ひゃくしょうやのすけのはなし

百姓弥之助の話

中里 介山

01 第一冊 植民地の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页

青空文庫

全然出所が別だから、親子の血を引く筈は無いが、見ように依っては浪花節の何処かにありそうな、親子生別れの場面が展開された。

それから野良の元兇は農舎へ引摺って行ってつないで置き、さて全く改心の見込無きものとして断然死刑に処してしまうか、或いは相当期間禁錮して、再び真猫に帰り得る見込有りや否やを試験するか、何にしても今日迄侵入と掠奪に依りこの通り肥り返っている代物だから多少の窮命を与えたからとて早急に生命に異状はあるまい。しばらくこの農舎につないで鼠の番をさせて置く――そうして弥之助はまた東京へ出たが、二日ばかりして帰って見ると野良猫は昨晩死んでしまったと云うことである。二晩や三晩で参る筈は無い屈強さと見ていたのが、寒さにこごえたか、針金の緊縛で心臓でも痛めたか、脆くも最期を遂げてしまった。

思えば猫の一生もまた多事と云わなければならぬ。

二十

百姓弥之助は或日の事、植民地を出て多摩川の沿岸の方へと歩いて行って見た。昔に変るいちじるしいものは水道と水田であった。

水道と云うのは多摩川の本流をここで分けて一方を玉川上水として、江戸以来東京へ引き、一方はそのまま東京湾へ落したものだが、昔はその分水も豊富であったが、東京の拡大するにつれ、今はもう殆ど全部を上水へ取入れてしまって、六郷の方へは殆ど一滴も