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ひゃくしょうやのすけのはなし
百姓弥之助の話
中里 介山
01 第一冊 植民地の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页
生食をなさいとは云わない、必ず相当の料理法を行ったものをお食べなさいと云う。
そこで料理法というものが登場して来るのだが、これは人間の技巧でその巧拙には際限がない、料理に依って物それの味わいを活殺する事もまた人の知るところである、如何に材料が新鮮優良でも料理の手一つで活かしも殺しもすればこそ割烹店というものが広大な構えをして、成立って行くのであるが、同時にまた所謂巧妙な発達した料理というものが、却って材料を殺してしまっているという例がいくらでもある、殺してしまって居るのではない、活かし得られないのである。
弥之助は東京の有名な料理店の、相当多数を味わった事もあるが、その店独得の品物や腕前は別として、野菜類などに至ると、どんな腕前を見せた料理でも、弥之助自身が畑から取って来て荒らかに、手鍋の中にぶち込んだ風味に及ぶものはない、それは海岸に於ける魚類に於ても云える事で、ピチピチと網にはねる魚をつかまえて来て直に鍋に入れるという風味は、都会のどんな料理店でもやれない。今日都会の料理店に来る材料は、来る前にもう死んで居るのである、如何に名人上手の庖丁でも死んだものを活かす訳には行かぬ。