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ひゃっかえん
百花園
宮本 百合子
「婦人画報」1926(大正15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,718 字 · 4 页
たった一人で、前に木版ずりの粉本を置き、余念ない姿だ。亭のまわりの尾花がくれにそれが見える。
写生の日傘と、東屋との間の道を、百花園と染抜いた袢纏の男が通る。続いて子供づれの夫婦が来かかった。
「お父さん、あんなトンネル、おうちにもあるといいね」
「うん」
「拵えてね」
「お家は狭いから駄目ですよ」
「ふーん」
父親、カメラを出した。
「さ、そこへ姉ちゃんとお並び」
六つばかりのその息子と十位の姉、雁来紅を背景にして、ポーズする。
「僕もよ、僕もチャチン」
姉娘が、母の手許からすりぬけて来た末子を、
「坊やちゃん、ここよ」
と自分の前に立たす。パチン。
男の子はすぐ歩き出して、写生している傘の中を覗いた。紙の上と実物の雁来紅の植込みとを、幾度も幾度も見較べた揚句、些か腑に落ちぬ顔つきで戻って来た。
「かあさん、あの人、黄色い葉っぱ描いてるよ」
おとなしやかな母親、それに答えず悠くり床几から立った。
「あ、そろそろお池の方を廻って帰りましょうか」
水浅黄っぽい小紋の着物、肉づきのよい体に吸いつけたように着、黒繻子の丸帯をしめた濃化粧、洋髪の女。庭下駄を重そうに運んで男二人のつれで歩いて来た。