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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

そこで眺めまわすと、「赤井の柚子」といわれるくらい巨きな柚子がたくさん生っていた。樹が巨きいので枝も高い、又四郎は救われたように微笑して、そっちを指さしながらきいた。

「あの柚子は、採るときには、三叉で採るかね、それともまた、梯子など掛けて……」

だが喜兵衛はもうそこにいなかった。又四郎は暫く待ってみたのち、漠然と別れの身振りをして赤井家を辞した。そうして門外へ出ると、そこでつくづく嘆じたのであった。

「――みんないそがしいことだなあ」

又四郎が身の上ばなしをここまで進めるのに、約一年の時日を要した。むろんこの間ずっとみつ枝に督励されてのことであるが、話がここへ来たとき、みつ枝は毎々のことながら眼をくるくるさせて、感に打たれて、かなりな程度情熱的に膝をすり寄せた。

「わたくし貴方のこういうお話だあい好き、胸のここのところが熱くなってきますわ、それからどうなさいましたの」

「――おどろいたわけです」手の甲で額を拭きながら彼は云った、「――なにしろですね、私が熟考しているあいだに、かれらはというと、すでに団体的決闘をやり、支配役に差止められ、処罰され、主謀者は五十日の謹慎を命ぜられ、その謹慎も終っていた、……こういうわけでしょう、これだけのことがですね、私の熟慮しているあいだに経過し、完了していた、要するに、私として