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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

「いやだ、……と云ったらどうする」

「日と時刻を定めて呉れればいい」

「――決闘かっ」

由平二は食いつきそうな眼をした。それから鼻下と顎の髭を動かして笑い、「これは面白い」と叫び、さらに躯全体を揺すって笑った。

「このおれを相手に、この苅賀由平二を相手にか、わっはっは、盲人蛇に怯じず、藪を突ついて蛇、毛を吹いて傷を求め、飛んで火に入る夏の虫か、蟷螂の竜車に向う斧、いやはや、いやはや、おかしくって臍が茶を沸かすぞ」

大略このように嘲弄したうえ、日は明後日、時刻は朝五時、場所は水車場の河原ということに定めた。そして又四郎が立つと、そのうしろからさも面白そうに次のように活溌に愚弄した。

「――命が惜しかったら断念しろ、恥は忍べるが死んで生き返ることはできんぞ、ばかはあとで後悔する、転ばぬさきの杖、笑止せんばんの抱腹絶倒、先哲のいわく……」

そのあと大賢は大愚に似たりとか、ほかにもいろいろと並べたてたようだが、又四郎はさっさと出て来たので聞えなかった。……苅賀へいった日の夜になって、彼は唐川運蔵を訪ねた。明日にしようかと思ったのだが、御用が多くてぬけられなくなる惧れがあったのである。