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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

彼はふと眉をしかめた。筋骨の逞しい、髭の濃い、眼のぎょろっとした苅賀の相貌と、あの豪放な嘲弄とを思いうかべたのである。それはそのまま威圧的で、力感に充ちて、闘志の固まりのように感じられた。

「――そうさ、それほど脆くは負けやしないさ、……おれだってまさか、……だがどうしたんだろう、もう来そうな時刻なんだが」

又四郎は振返って土堤のほうを見た。それから立っていることにやや疲れ、河原の乾いているところを捜して、そこへ腰をおろした。

源空寺のらしい、八時の鐘を聞くまで待ってから、彼は諦めて河原をあがった。苅賀はとうとう来なかったのである、けれども又四郎としては、なにか急用でも起こったか、家に病人でも出たのだろうと思い、帰りに二条町の苅賀へまわってみた。そこで初めてわかったのであるが、由平二は家財を売りとばし、昨夜半、妻子を伴れて出奔したということだった。

「私どもはなにも知りませんので、へい」愚直らしい下僕がそう云った、「朝になったら旦那もどなたもいらっしゃらねえので、へい、家の中はごらんのとおり、一刻ばかりまえに屑屋だの古道具屋がまいりまして、昨日すっかり値踏みもし代物も払ってあるということで、へい、なにもかも持ち運んでっちめえまして、わたくしなんぞの給銀のほうはどうなるのか、どこへ願って出たらいいものか、そこ