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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

にして貰いたいような、口でいうのが恥ずかしいような気持におさせになるの、江戸ではきっとたくさん御婦人をお泣かせなすったのでしょ、知っていますわ、白状なさいましよ」

「そんな、私は、決して」又四郎は狼狽していよいよ赤くなり、舌が硬ばってきた、「――お願いします、そんなことは、どうか、私は、その、お約束をはたすために、……その、はっきり申しますが、あのときのお約束では、慥か」

「そうそう、お約束がございましたわね」

「三十になるまで待って頂きたい、私はあのとき、こうお願いしました」

「――三十になるまで……」

「そうです、今年はそれで、私は三十になったものですから」

まあという叫びが嬢の口紅の濃い唇のあいだからもれた。驚きと歓びと、そうして一種の感嘆のこもった声である。彼女は大きくみひらいた眼でこちらを眺め、かなり長いことうち眺め、それから初めてすべてを了解したとみえ、にわかに眼を輝かし、ちょっと身を揉むようにして、大きく深く喘いだ。

「やっぱり、ああ、やっぱり貴方でした、わたくし貴方だけはお信じしていましたの、貴方だけはお信じできる、男という男は利己主義で我儘で卑怯だけれど、貴方お一人は、秋成さまだけはお信じできる、そう思っていましたのよ、うれしい、やっぱり貴方は又四郎さまでしたわねえ、わたくしもう……」