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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页
……又四郎はその前へいって立ち、おじぎをして、ちょっと笑っていった。
「しばらくでしたねえ、和尚さん、いかがですか、墓の下のぐあいはどんなものですか」彼はそっと片方の手を振った、「今だからいいますがね、私は実は、ひところは和尚さんをおせっかい坊主だと思いましたよ、正直にいいますがねえ、……ところがあれから五年、帰って来てみてですねえ、いろいろ現実面に接してみて、驚きましたよ、まったくのところ驚いたんです」
又四郎は桶屋町の裏長屋を思い、足軽におとされた伝内を思い、胃がやぶけて死んだという丙午を思った。豪傑笑いをして夜半に逃亡した苅賀由平二、庭へ土下座をした運蔵。これらの人々の、身の上の転変と盛衰、……しかもすべては五年間のことである。このあいだ又四郎は「参」つなぎの百足ちがいで、人にばかにされながら悠々とやって来た。そしてかれらが或いは生活にやぶれ、堕落し、或いは死し、出奔して、すでに人生をなかば遣いはたしているとき、逆に又四郎は側用人にあげられ、結婚しようとしている。彼の人生は、実にこれから始まろうとしているのである。
――せくこたあねえ、せくこたあ。