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えいきょ

盈虚

中島 敦

「政界往来」1942(昭和17)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,655 字 · 16 页

青空文庫

一日も早く父に代り度いが為の策謀と明らかに知れ、趙簡子も流石に些か不快だったが、一方衛侯の忘恩も又必ず懲さねばならぬと考えた。

其の年の秋の或夜、荘公は妙な夢を見た。

荒涼たる曠野に、檐も傾いた古い楼台が一つ聳え、そこへ一人の男が上って、髪を振り乱して叫んでいる。「見えるわ。見えるわ。瓜、一面の瓜だ。」見覚えのあるような所と思ったら其処は古の昆吾氏の墟で、成程到る処累々たる瓜ばかりである。小さき瓜を此の大きさに育て上げたのは誰だ? 惨めな亡命者を時めく衛侯に迄守り育てたのは誰だ? と楼上で狂人の如く地団駄を踏んで喚いている彼の男の声にも、どうやら聞き憶えがある。おやと思って聞き耳を立てると、今度は莫迦にはっきり聞えて来た。「俺は渾良夫だ。俺に何の罪があるか! 俺に何の罪があるか!」

荘公は、びっしょり汗をかいて眼を覚した。いやな気持であった。不快さを追払おうと露台へ出て見る。遅い月が野の果に出た所であった。赤銅色に近い・紅く濁った月である。公は不吉なものを見たように眉を顰め、再び室に入って、気になるままに灯の下で自ら筮竹を取った。

翌朝、筮師を召して其の卦を判ぜしめた。