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えいきょ

盈虚

中島 敦

「政界往来」1942(昭和17)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,655 字 · 16 页

青空文庫

晋では当時范氏中行氏の乱で手を焼いていた。斉・衛の諸国が叛乱者の尻押をするので、容易に埒があかないのである。

晋に入った衛の太子は、此の国の大黒柱たる趙簡子の許に身を寄せた。趙氏が頗る厚遇したのは、此の太子を擁立することによって、反晋派たる現在の衛侯に楯突こうとしたに外ならぬ。

厚遇とはいっても、故国にいた頃の身分とは違う。平野の打続く衛の風景とは凡そ事変った・山勝ちの絳の都に、侘しい三年の月日を送った後、太子は遥かに父衛侯の訃を聞いた。噂によれば、太子のいない衛国では、已むを得ずの子・輒を立てて、位に即かせたという。国を出奔する時後に残して来た男の児である。当然自分の異母弟の一人が選ばれるものと考えていたは、一寸妙な気がした。あの子供が衛侯だと? 三年前のあどけなさを考えると、急に可笑しくなって来た。直ぐにも故国に帰って自分が衛侯となるのに、何の造作も無いように思われる。

亡命太子は趙簡子の軍に擁せられて意気揚々と黄河を渡った。愈々衛の地である。戚の地迄来ると、しかし、其処からは最早一歩も東へ進めないことが判った。太子の入国を拒む新衛侯の軍勢の邀撃に遇ったからである。