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えいきょ

盈虚

中島 敦

「政界往来」1942(昭和17)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,655 字 · 16 页

青空文庫

或夜、荘公は渾良夫に向って、先の衛侯輒が出奔に際し累代の国の宝器をすっかり持去ったことを語り、如何にして取戻すべきかを計った。良夫は燭を執る侍者を退席させ、自ら燭を持って公に近付き、低声に言った。亡命された前衛侯も現太子も同じく君の子であり、父たる君に先立って位に在られたのも皆自分の本心から出たことではない。いっそ此の際前衛侯を呼戻し、現太子と其の才を比べて見て優れた方を改めて太子に定められては如何。若し不才だったなら、其の時は宝器だけを取上げられれば宜い訳だ。……

其の部屋の何処かに密偵が潜んでいたものらしい。慎重に人払いをした上での此の密談が其の儘太子の耳に入った。

次の朝、色を作した太子疾が白刃を提げた五人の壮士を従えて父の居間へ闖入する。太子の無礼を叱咤するどころではなく、荘公は唯色蒼ざめて戦くばかりである。太子は従者に運ばせた牡豚を殺して父に盟わしめ、太子としての己の位置を保証させ、さて渾良夫の如き奸臣はたちどころに誅すべしと迫る。あの男には三度迄死罪を免ずる約束がしてあるのだと公が言う。それでは、と太子は父を威すように念を押す。四度目の罪がある場合には間違いなく誅戮なさるでしょうな。