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とうなん

盗難

江戸川 乱歩

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年5月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,320 字 · 25 页

青空文庫

滑稽だったのは、そうした金を盗んで行く巡査を、いや巡査に化けた泥坊を、主任の細君が玄関まで丁寧に送り出したことです。別に大きな声を立てた訳でも、立ち騒いだ訳でもないのですから、茶の間にいた細君には少しも様子が分らなかったのです。そこを通る時曲者は「お邪魔しました」なんて、平気で細君に声をかけた相ですよ。「まあお見送りも致しませんで」と細君も一寸妙に思った相ですが、兎に角自分で玄関まで見送ったというのです。いや大笑いですよ。

それから、寝ていた雇人なども起きて来て大騒ぎになったのですが、その時分には、泥坊はもう十町も先へ逃げている頃でした。皆のものが期せずして門口まで駈け出しました。そして、暗い町の左右を眺めながら、あちらへ逃げた、こちらへ逃げたと、下らない評定に時を移したものです。夜ふけですから、両側の商家なども、戸をしめて終って、町はまっ暗です。四軒に一つか、五軒に一つ位の割で、丸い軒燈がちらほらとさびしく光って居るばかりです。するとね、向うの横町からぽっかりと一つの黒い影が現れて、こちらへやって来るのが、どうやら巡査らしいじゃありませんか。